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ライ麦泥棒つかまえて

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大学を出て初めて就いた仕事はガス会社の営業だった。しかし、取引先の態度が気にくわなかったので喧嘩してすぐに辞めた。その次はコピー機の営業だったが、上司がノルマノルマとうるさかったし、会社の体質も体育会のノリでついて行けずに辞めた。その後も職を転々として、いまでは小さなスーパーでパートタイムで働いている。フロアマネージャーは遙かに俺より年下だ。ここも長くはないな、そう思ってる。

青果売り場でリンゴを並べていると、そこへ店長がやってきた。この店長、見た目はおっとりしてトロく見える。しかし、詳しいことは知らないが、落ちこんでいた精肉売り場の売り上げを倍に増やしたそうだ。案外やり手なのかもしれない。

「ここ最近、青果売り場の売り上げが落ち込んでいるんだ」

「俺は言われたことをやってるだけです」

俺は警戒して答えた。どうせ、お前のせいだとか、余裕がないから首だとか言うのだろう。天候不順による不作が原因で果物の価格が上がろうが、全部責任は下の者に押しつけられる。

「いや、そういうことじゃないんだ。果物の値段が上がっているのが原因なんだけど、うちではこれ以上値段はさげられない。そこで、精肉売り場でやったみたいに、売り方を工夫しようと思うんだ。例えば果物を擬人化して物語を与えてやる。どう思うか感想を聞かせてくれないかな」

・・・何言い出すんだ、この馬鹿店長。文学青年くずれなのか?






「今年もこうして多くのリンゴが実りの季節を迎えられてわしも感無量じゃ」

「じいさん、俺たちリンゴの実がここまで育ったのはじいさんというリンゴの木があったからだ。みんなあんたのおかげだ」

「何を言うか。わしはここでこうして見守っていただけじゃ。雨の時も風の時も大雪の時だって。風雪に耐え、ここまで大きくなったのはおまえたちががんばったからじゃ」

「どんなにくるしい天候にも俺たちは耐えられた。それはじいさん、あんたがいつも見守っていてくれると分かっていたからだ。つらいときも誰かが自分の辛さを分かってくれる、自分一人だけではないと思えば辛さは半分になる。見守るとは何もしないということではない。一緒に重荷を背負うということなんだ」

「そういってもらえてわしも嬉しい。台風の時、次々と地上に落ちていくリンゴの実を見て何も出来ない自分に絶望した。何度も何度も。わしなど存在しない方がいいとさえ思った。あるとき、わしの体である幹が真っ二つに折れた。わしももうこれまでだと観念した。人間達もわしを切ってあらたな苗を植えるつもりじゃった。しかし、そんな中、この農家の一人の老人が反対した。この木はまだ生きている。いずれ再び花を咲かせ、実を実らせるだろうと。あとで人間達の会話から分かったことは、この老人はがんで余命幾ばくも無かったらしい。おそらくわしにがんにおかされた自分の姿を投影していたのじゃろう。わしはその日から必死で生きた。そうして再び花を咲かせ、実を付けたのじゃ」

「それなら、その老人も嬉しかっただろうな」

「・・・その老人が実をいっぱいに実らせたわしの姿をみることはなかった。なぜなら、その半年前に・・・もう」

「そうか、そうだったのか。見せたかったな、その姿を」

「しかし、老人の遺灰は老人の遺言でこの農園にまかれた。わしは一人ではない。お前がひとりでは無かったように、わしも老人に常に見守られていたのじゃ。だが、それも今年限りじゃ。わしも年老いた。枝はまるで枯れ枝のようにすぐに折れ、幹には空洞が広がり、根には養分を吸い上げる力もない。来年花を咲かすのはむりじゃろう。だから、こうしてお前達を見送るのも今年限りじゃ」

「そんな、老人との約束はどうなったんだ!もうあきらめちまうのかよ!」

「そう悲しむな。わしはただ朽ち果てるのではないそ。ここでこうして枯れても、その体は新たな芽のための養分となる。そうして、あの老人と同じようにここで若木たちを静かに見守っていくのじゃ。永遠に」






「・・・というような話なんだけど、どうかな」

俺はなぜか泣いていた。ここでがんばってみよう、そう思った。

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