主にショートギャグを書いています

ライ麦泥棒つかまえて

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やがて私は角へ角へと追い込まれていきました。このままではもう後がないと言うとき、はっと気がついたのです。どうなったら勝敗が決まるのか誰も分からないということに。私たちの誰もがただ漠然と、最後に立っていた方が勝ちで地面に横たわっていた方が負け、というように考えていました。ですから、このままこの場所から逃げてしまっても、それが負けになるというルールは決められていないのです。

どうしてこんなことになってしまったかというと、両家とも憎しみの余り顔をみることさえ嫌がったため双方が使いの者を立てたのですが、頭に血が上っていて使者に細かな指示を出すことを忘れてしまったからです。その為、双方が代表者一名を立ててその二人の決闘によって勝敗をきめることと、勝った方は負けた方に領地の一部を明け渡すこと、それから決闘の日時、この三つのことしか話し合われませんでした。誰か別の第三者に間に入ってもらえばよかったのでしょうが、両家の仲の悪さは国中で評判だったので、皆うんざりして誰も仲介役を買ってくれなかったのです。

私は後ろの斜面を滑り降りると、森の中を通り抜け、走って走って走りまくりました。ふと後ろを振り向くとゴリアテの姿は見えません。そのまま決闘場には二度と戻りませんでした。私は隣の宿場町までたどり着くと、その夜は一軒の宿屋を選んで泊まることにしました。

もちろんこのような場所に泊まるのは初めてのことです。堅いベッドに汚いシーツ。とても寝る気にはなりませんし、眠れませんでした。走りに走って体はくたくたなのですが、頭は冴え渡っていました。考えまいとしてもやはりあの後どうなったのかが気になります。ルール上は逃走することは負けではないし、そうなるとまだ勝負は続いていることになります。そうやって一晩中眠らずに考え込んでいたことで命拾いしました。

あれは真夜中過ぎです。突然一階のドアを突き破る大きな音がしました。私は服も脱がずに椅子に腰掛けてうとうとしていたのですが、そのまま二階にある部屋の窓を開けて道路に飛び降りました。おかしな話ですが、このときは汚いベッドに感謝しました。そうでなければ服も脱いでベッドで熟睡していたことでしょう。そのため、きっと今頃ゴリアテに卵の殻をわるように、頭をたたきつぶされていたはずです。

ゴリアテは野蛮人というにふさわしく、嗅覚によるものか野生の勘なのかわかりませんが、その後も撒いたと思ってもすぐに居場所を見つけられてしまいます。そのため、常に居所を変える必要がありました。旅費については、待ち合わせ場所を手紙で伝え、使者に届けてもらっています。

こうして彼の身の上話を聞くうちに、だんだんとこの話は作り話ではないかと考えるようになった。ゴリアテという名は聞いたことが無いし、二メートルも超す大男で、石に突き刺さった剣を百キロを超える石ごと軽々と振り回す元傭兵の話も知らない。第一、力持ちとは言えそんなことが人間にできるだろうか。ある程度の誇張はあるだろうと思って聞いていたが、これでは完全に酔っ払いの与太話だ。

くだらない話で時間を無駄にしたと後悔しながら、気になっていたことを聞いてみた。
「それでいつからこうして逃げ回っているのかね?」
「逃げ回っているなどとんでもない。まだ決闘の最中ですよ」
「では、いつになったら終わるのかね?」
「向こうが飽きるまでですよ」
「向こうもそう思っているかもしれないよ。そうであれば永遠に終わらんよ」
「いっそのこと港町から外国に逃げようかとも考えています。ですが、外国となるといろいろ不便ですからね」
海を渡ればさすがに死に神も追っては来まい。海外渡航は真っ先に打つべき手であるのに。

「どうやらもう見付かったらしい」
彼は辺りを見回しながらそんなことを言い出した。しかし、店に入ってきた中にそのような風体の男は見当たらないし、そもそもここからは外の様子が見えない。
「どうしてそんなことが分かるのかね?」
「向こうが生まれついての野生の嗅覚の持ち主なら、私はこの追いかけっこによって後天的に野生の嗅覚を獲得したからですよ。急いでこの街から出ないと」
「出るって?夜明けまで門はあかないよ」
「それでは、夜の間街中を追いかけっこといきますか。どうやらこの街は大きそうだ。今すぐに発てばそれぐらいの時間はかせげそうです。これで失礼」
そういうなり、若者は急ぐようにして席を立った。

十分飲んだことだし腹も膨らんで、もうそろそろ帰ることにした。勘定を払って店を出るつもりでいたところ、店の者がこんなことを言い出した。
「お二人様ですね」
「違うよ、一緒の席にいたのは見ず知らずの人だよ。第一、相席をお願いしたのは君じゃないか」
「あのお客様は、二人で意気投合したから勘定は相席の相手が支払ってくれることになったとおっしゃっていましたが・・・」
「そんな約束はしていない。やられたな、食い逃げだよ」

そんな義理はないのだが、悔しがる店員をなだめて代金は二人分払ってやった。我ながらなんというお人好しだ。確かに下らないホラ話をきかされて少々がっかりしたが、今ではさきほどとは別の意味であの若者に同情をしている。彼はこうやってホラ話をして食事にありついているのだ。おそらく、たいていの人がこうやってあきれながらも彼の支払いを肩代わりしてやっているのだろう。場所は酒場だ。皆酒を飲んで気が大きくなっている。しかし中には知らんぷりを決め込む人もいるだろう。酒場から食い逃げの申し立てが出される頃には、きっとこの街を出て別の街へと向かっているに違いない。

どのように考えてみても彼のやっていることはやはり詐欺でしかない。追っ手が迫っていることなんて、店の中にいてわかるわけがないじゃないか。そもそも追っ手などいないに決まっている。それを慌てた演技などして、代金を支払う時間さえ惜しいほどに急いでいたとでも言うのか。

店から出たとき、その男はちょうど私の目の前を走っていた。手には大石が突き刺さった剣を持って。

・・・本当にいた!

(終わり)

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