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ライ麦泥棒つかまえて

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私がその奇妙な男の話を聞いたのは酒場でのことだった。日が沈むと同時に、城塞都市の南側に位置するこの大手門を閉める事が、日々行う最後の仕事になる。それから剣と鎧を保管庫に預けると、酒場へ行って一人酒を飲みながら夕飯を取る。その後は宿舎に戻って寝る、というのが日課になっていた。

日没とともに皆仕事を終えるので、この時間はどこの店も混んでいる。行きつけの店を選んで中に入ると、奥の二人掛の席が空いているのでそこに座った。ここは城下町として栄えているだけのことはあって、人が多い。城で働く者、店で働く者、市で物を売るためにはるばる遠くから来る者、それから旅人。そのため、外から来る者のために大通りには宿屋や酒場が並んでいた。

時間が経つとともに酔客が増え始め、店の中が段々と騒がしくなってくる。酒を飲みながら料理を待っていると、店の者から混んできたので相席でもかまわないか、と聞かれた。見回すと周りの席は全部埋まっているのに、このテーブルだけ向かいの席が空いていた。私はうなずいて答えた。

向かいに座ったのはやけに小柄な男だった。奇妙なことに、その体に見合わぬ大きな剣を背中に背負っている。男は背負っていた剣を下ろすと、それを壁に立てかけた。

見たところ歳は二十歳ぐらいだろうか。酒と料理を待つ間、両手で椅子から腰を少し浮かせては足をぶらぶらさせている。身長と相まってその姿はまるで子供だ。口元にはわずかに笑みを浮かべているようにも見える。しかし、日に焼けた顔の下にある筋肉の盛り上がりが衣服の上からでも見て取れた。まさに筋骨隆々といった感じだ。目的を持って鍛錬をしないことには、こういった体にはならない。

この男が旅人であることには間違いないだろうが、行商人でないことは確かだ。しかも、あの大剣は護身用というには大げさすぎる。おまけにそれを酒場にまでもってくる念の入れ用だ。そして、日々仕事に負われずに鍛錬に打ち込める身分など限れている。だが、旅人というからにはもちろん主君に使えてはいないはずだ。少なくとも今は。

酔いのせいか仕事でもないのに詮索せずにはいられなくなってきた。そこで目の前の若者にいろいろ尋ねてみることにした。
「おまいさん、どっから来たね?」
いきなり話しかけられて少し驚いたのか、彼は一瞬きょとんとした表情をすると、今しがた運ばれてきた酒からこちらへ視線を移して、「北の方です」と答えた。
「北の方にある街ならよく知っている。で、北の方のどこなんだね?」
「北は北です。街道から外れた小さな村ですからきっと知らないですよ」
「言ってみないことには知っているか知っていないか分からないじゃないか。とにかく言ってみなさい」
「実は来た方角が北というだけで、出身地はもっと南なのですよ」
いよいよもって怪しい。なぜはっきりと答えられないのか。

「それならこの街に来たとき、北門から入ったね?」
「そうですけど」
そりゃそうだ。こんな怪しい男が尋問もせずに中に入れるわけがない。しかし、北門の警備にもあきれたものだ。南門だけしっかりしていても、他がこんな杜撰では意味が無い。

「はっきりと言えないのには訳があるのです。私はある男から命を狙われていまして、あちこち逃げて回っているのです。そのことが広まれば我が家名の恥になってしまいます。ここでこうして一つのテーブルを挟んでいるのも何かのご縁。もし、私のことを詮索しないと誓っていただけるのでしたら、ここで事情をお話しても構わないのですが」

とにかくここはこの男を安心させて話を聞き出さないことにはどうにもならない。その上で事と次第によっては、捕まえて一晩留置した後、明日の朝開門と同時に城の外に放り出せばいい。それを先にここで捕まえて留置場で話を聞き出すとなると、聞き出すのが難しくなるおそれがある。
「わかった。とにかく話を聞こう」
いいでしょう、そういってこの奇妙な男は語り出した。

私はとある地方領主の次男坊として生を受けました。領主と言っても、ほんのわずかな領地を治めるだけにすぎません。ですが土壌が恵まれているのか、領地の一部に収穫の良い農地を抱えていて、土地は豊かです。しかし、そのことは喜ばしい反面、土地を接する隣の領主と土地の境界線をめぐってのいざこざが絶えませんでした。

それは都にいる大貴族の伯爵様からこの地を治めよと、私の祖父の代に命を下されて以降ずっと続いてきました。近くで大国同士の争いがありますと、我が家があちらにつけば隣家はこちらに、その反対に隣家があちらにつけば我が家はこちらにと言った風に、戦争ではいつも敵味方に分かれて戦ってきました。

長く続いた戦乱も終わり、兵を引かなくてはならなくなりました。命令に反し戦を続けていれば、これ以降は私闘とみなされ両家とも領地を没収されてしまうからです。とは言えこのまま命令に従うとしてもわだかまりが残ります。戦でいままで多くの犠牲を払ってきたからです。

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