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ライ麦泥棒つかまえて

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「こちらではこんな深い霧がよく発生するのですか?」
「この時期はこんなもんだわ。特に前の日に雨降ったりすると。君、どっから来たの?」
今度は男性だ。年取った感じの声だ。男性の声はさっきの女性の声よりも向こうから聞こえる。
「東京からです」
「東京でも霧くらいでるでしょ」
「手元すら見えないような、こんなのは初めてです」
「ちょっと、あんた、さっきからシャカシャカうるさいんだよ」
いきなり強い口調に変わって何かを注意されたようだが、いったい何について話しているのか全くわからない。どう答えていいものかわからないので黙っていると、彼はさらに声を荒げて言った。
「あんただよ、あんた!」
「おい、人が音楽聴いているのに、何すんだよ」
さっきよりもっと若い声が答えた。彼は老人の声に負けまいとするかのように、声を荒げて言い返した。
「ちょっと、どさくさに紛れて変なとこ触らないでよ」
今度はさっきの女性が騒ぎ出した。
「バス待つ間何しようが俺の勝手だろ。ヘッドフォン返せよ」
「あんたねえ、そうやって満員電車の中でも音楽聴いたりしてるだろ。本人は好きな音楽聴いていいかもしれないが、シャカシャカ音漏れして周りの人間は耳障りなんだよ!」
「さっきからおしり触っているのは誰よ?痴漢で訴えてやるわ!」
「私じゃないぞ。さっきから右手にバック、左手にこの人のヘッドフォン持っているから両手が塞がっているし」
「そんなのこの霧じゃ見えねえよ」
「・・・いえ、たぶんこの人じゃないわ。この人の声、私の正面から聞こえるもの。触ったのは私の後ろにからよ。絶対にゆるさない」
「いいじゃねえか、減るもんじゃ無し。それに声からしてババアだろ。たまたま手が当たっちゃったんじゃないの」
「なんですって!?ふざけないでよ。こうなったら意地でも捕まえてやるわ」

案の定、彼の発言の中での、「ババア」や「減るもんじゃ無い」という禁句の連発は、彼女の怒りの火にガソリンを注ぐ結果となった。怒りにまかせて彼女は実力行使に出ることにしたらしい。しかし、視界は真っ白で先が全く見えない中では、その怒りがどこに向かうかわからない。しかし不運なことに、とばっちりはどうやら僕のところに飛んできたらしい。
「きっとこいつよ、ほら腕をつかんだわ。もう離さないから、あんたたち、こいつを捕まえて!警察に突き出すのよ!!」

彼女は何を言っているのかと思っているうちに、髪の毛が激しく引っ張られた。
「違います、僕じゃありません。痛い、髪の毛を引っ張らないで!!」
「あんただったのか。話した感じでは、人当たりがよさそうと思ってたのだが、こんなことをするような人間だったんだとはな。都会の人間はみんな裏表があるんだなあ。・・・やっぱり都会は怖いな。孫娘にもよく言って聞かせないと」
「だから僕じゃないって!もういいかげん離してください」

頭の痛みに我慢ができず、僕は強引に手を振りほどこうとするが、そうするとさらに髪が引っ張られ、より激しい痛みに襲われる。そのため無理に彼女の手を振りほどくことを、途中で躊躇してしまう。なんとか手を振りほどこうとする僕に、そうはさせじと必死で髪をつかむ彼女。ほとんど怒鳴るように、二人とも声を張り上げて言った。
「ほ、本当に僕じゃ無いです!それに、こんなに霧が濃くて前が見えないのに、どうして僕が犯人だとわかるんですか?」
「私の前に並んでいる奴が犯人だからよ!あんたがそうでしょ。最初見たときから、ヨレヨレの服着てしょぼくれてて、こういうのが電車の中で痴漢したり、会社でセクハラしたりすると思ってたのよ!」
「そんなの言いがかりだ!冤罪だ!!」

彼女は後ろを向いていて、背後からお尻を触られたと言っている。犯人は列で言うと自分のすぐ前に並んでいる男だと。そして彼女は僕のすぐ後ろに並んでいるようだ。状況はかなりまずい。僕は彼女の言い分を否定しようとして、そこで自分が列の後ろを一度も見ていなかったことに気がついた。バスの時刻表に気をとられているうちに霧が濃くなり見えなくなってしまったのだ。

もちろん僕はそんなことはしていない。だけど、もしかしたら、今、この手に持っている旅行用のバックが、気づかない間に彼女のお尻に当たっていたかもしれない。それを彼女は人の手だと勘違いした、そういうことはあるかもしれない。この騒ぎを早く止めたい気持ちも手伝って、だんだん本当にそうだったのではないかという気がしてきた。僕は思い切って言ってみた。
「僕はぜったいに触っていませんが、もしかしたら気づかないうちに鞄が当たっていたのかもしれません。それでしたら、すみません」
「私も出張で東京に行ったとき、満員電車で痴漢に間違われそうになったことがあるよ。駅に着くなりすぐ前に立っていた女の人がこっちを振り返って、足を蹴っ飛ばして降りてったんだ。しばらく何でそんなことされたのかわからなかった。彼も謝っていることだし、もういいんじゃないかな」


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