主にショートギャグを書いています

ライ麦泥棒つかまえて

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谷口東次郎は良き市民であり、良き夫であり、良き父親だった。それがなぜロサンゼルスにある刑務所に入ることになったのか?

彼は仕事の都合で三ヶ月前に妻と12歳になる娘とともに、東京から越してきたばかりだった。渡米前に英語の猛特訓のかいもあって、日常会話が支障なく話せるぐらいにはなっていた。しかし、妻の佐枝子は買い物の度に言葉が通じなくて一苦労よ、とよくぼやいていたものだった。

ある晩、家族でミュージカルの舞台を見た帰り、途中で車が故障してしまった。時間も遅いし、アパートがすぐ目の前でもあるので、車は路上に止めたまま、すぐ横の公園を突っ切って帰ることにした。

まだアメリカに来たばかりで親しい友人もおらず、東次郎自身がアメリカのことも、この辺りのことも何もわかっていなかった。この公園はギャングの縄張りだったのだ。

東次郎は翌日病院で気がついた。その時には腹の銃創は緊急手術によって塞がれていた。医者が妻と娘は助けられなかったと告げた。その後、地元の刑事が話を聞きに来たがまるで人ごとのようにどこか上の空で答えていた。

その後、犯人達は警察が逮捕する前に、他のギャングとの抗争で死んだと聞かされた。だが、日が経つにつれ彼の中で怒りが沸き起こってきた。犯人に対してではない。犯人達は法の裁きこそ受けなかったものの、神の裁きを受け地獄に落ちた。しかし、あのとき、東次郎が腹を撃たれ妻と娘が暴行を受けている時、現場を通りかかったアベックが、それを動画に撮りインターネットの動画サイトに投稿していたことを知ったからだ。

彼は警察に行き、あのとき事件の目撃者の男女が傷ついた自分を励まし、警察に連絡をしてくれたので、そのお礼をしたいから二人のことを教えて欲しいと嘘をついた。事実は全く違う。あのとき助けを求めたがそれを無視して大喜びで一部始終を携帯電話で撮影していた。彼はあきらめて道路まで這っていき他の通行人に通報を頼もうとしたが、その途中で気を失った。翌朝、パトロール中の警察官に東次郎達は発見された。犯人達は報いをうけたがこいつらは今ものうのうと生きている。そのことが東次郎には許せなかった。

そして拳銃を持って、あのときのアベックが住むアパートに向かった。彼が行った事件は「報復殺人」としてアメリカだけでなく日本でも大きく取り上げられた。そして彼は20年の懲役刑を受け、刑務所に収監された。

刑務所の中は白人のグループとアフリカ系を中心とした有色人種のグループとに別れていた。東次郎は同じ房のメキシコ人からグループに入ることを勧められたが断った。彼らは元ギャングや麻薬の密売人で東次郎一家を襲ったギャング達とダブって見えたからだ。

しかし、これは誰も彼を守ってくれないことを意味する。彼はシャワー室で白人のグループに襲われた。一人でシャワー浴びていると、背後から七人が近づいてきた。だが、気付かないのか彼らに背を向けたままだ。そのうちの一人が東次郎に後ろから殴りかかるが、すべって転ぶ。それを契機に次々に彼らは転んだ。東次郎は振り返ると床に寝転がっている襲撃者の腹を蹴り、うずくまったところ顔を踏みつけて言った。死にたくなければ二度と手を出すなと。彼らは気圧されてしまい、動くことが出来なかった。

彼は近いうちにどちらかのグループが襲ってくることを予想して、あらかじめシャワー室の床のタイルに石けんを塗って滑りやすくしておいたのだった。

それからしばらくして、同室のロドリゲスから今度は有色人種のグループから狙われていると告げられた。

翌日、刑務作業場にロドリゲスは来なかった。代わりにカラードのグループに取り囲まれた。刑務作業はリネン室でロドリゲスと二人きりで行っていた。彼は東次郎のことを心配し、グループへの参加を勧めていたし、何かと気に掛けてくれていたので信用しきっていた。その結果こうして彼は売られることになったのだ。

東次郎を取り囲む輪の中から、一人のアフリカ系の男が前に進み出てきた。

めっちゃ見てる

薄笑いを浮かべながら彼を見ている。ゲイなのかもしれない、そう思った。だが、刑務所の中ではゲイでなくともレイプが行われる。猿が相手の耳を噛んで自分の立場を誇示するのと同じだ。

男は東次郎が警戒しているのもかまわずに、すぐ目の前に進み出た。そして、小さな小箱を差し出した。どういうことなのかとまどいながらそれを受け取った。

「おまえにやる」

小箱を開けると、中にはハート型をした白い塊が入っていた。

「コカインをハートの型にした」

どうやらプレゼントをして気を引こうとしているらしいことは分かった。

「残念だが、薬はやらないんだ。悪いな」

そう言って、箱ごと突き返す。
男はがっかりしたような顔をしたが、すぐに気を取り直したようで別の箱を取り出した。

「なら、これをやる」

箱を開けると、中には注射器が入っていた。

「ここにお前と俺の名前を入れる」

「だから、薬はやらないんだ」

そう言って、再び箱を突き返す。
また男はがっかりした顔をする。

「じゃあ、女を紹介してやる。俺の妹」

今度は一枚の写真を取りだした。東次郎が写真に目をやると確かに美人で胸も大きかった。歳は二十歳ぐらいだろうか。兄貴に似ないでよかったな、と思った。

「ありがたいが、俺はあと20年だ。出てくる頃にはおばさんだ」

どうやらしばらくはケツの貞操は守られそうだ、そう思い彼はホッとした。そして写真をポケットにしまいながら言った。

「その妹に娘はいないか?」

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