主にショートギャグを書いています

ライ麦泥棒つかまえて

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

  1. スポンサー広告
  2. [ edit ]




うちの店長にも困ったものだ。精肉売り場の前で高校生のアルバイトと何か話し込んでいたので嫌な予感はしていたが、店長の考えた豚の一家団らんのお話をPOPでベタベタ肉売り場に張り出したのには参った。確かに結果として一時的には売り上げが伸びたから良いものの、そういうことは現場にきちんと話を通してくれないと困る。もし、何か問題が起きたとしても何も聞かされていなければこちらでは対応が出来ない。案の定、売り上げが伸びたのも一時的なもので、後はその反動で大きく売り上げが落ちてしまった。

そして、このことが原因なのかどうか、いや、おそらくこれが原因だろう、極めて個人的な問題だが、いまトラブルを抱えている。おそらく誰にも信じてもらえないだろうが、見えるはずのないものが見えるようになった。つまり、幽霊が見えるようになってしまった。ただ、それは人の霊ではなくて、ブタの霊だ。

例のpopを張り出してからしばらく立ったある日、ドアの隙間から何か背の低い動物が顔を出しているのに気がついた。最初はたちの悪い客がスーパーの店内に連れ込んだ犬か猫がバックヤードに紛れ込んだのかと思った。しかし、よく見ると顔に毛はなく、特徴的な鼻を見てすぐにブタだと分かった。しかもピンク色の肌をしている。そしてその背には羽まで生えてる。それはきっと飼い主がつけたのだと思った。よく、犬に服を着せる飼い主がいるから、そういう感覚で飼っているブタに羽をくっつけているのだと。

ピンクの豚

豚肉を売っているとは言え、ブタが紛れ込むのは衛生上問題があるので、つかまえようと近づくと、ブタはドアの隙間から外に逃げてしまった。あわててドアを開けて廊下を見るとそこにはもうブタの姿はなかった。

それから気がつくといつもブタがこっちを見ている。何をするわけでもなくただ見ている。それでつかまえようとすると消えてしまう。あるとき、パートのおばちゃんにブタを指さして、「あそこにブタがいますよね?」と聞いてみた。ところが、おばちゃんにはどうやらすぐ目の前にいるブタが見えないらしい。最初は冗談で言っていると思っていたらしくて、しつこくブタが見えるか聞いていたら、ついには「きっと疲れているのだから休んだ方が良い」と心配されてしまった。

それ以来誰にも相談できずに困っていたけど、高校の時の同級生で霊感が強くて幽霊が見えると言っていた子がいたことを思い出した。同級生とは言え、仲が良かったわけでもないし、ろくに話もしたことがない。でも、他に頼りになる人はいないから、思い切って卒業アルバムにある彼女の電話番号に掛けてみた。

やはり名前を名乗っても最初は誰だかわからなかったようだ。簡単に事情を説明して、彼女の家の近くにあるファミリーレストランで落ち合った。彼女の話によると、いまは占い師の見習いのようなことをしているらしい。

「佐藤君、幽霊なんて例え見えていたとしても存在しないし、占いだって本当に未来がわかるのなら競馬や株で当てて金持ちになっているはずだっていって、高校時代散々ばかにしていたじゃないの。しかもブタの幽霊って何よ」

ファミレスで彼女に詳しく事情を説明すると彼女に高校時代のことをなじられた。どうやら、暇つぶしに高校時代の同級生を呼び出してからかっていると思われているらしい。そう思われてもしかたがない。それくらいつい最近までは幽霊とかそういったたぐいは全く信じてはいなかった。なんとか信じてもらえるように、必死で説得しかいもあって彼女の力を貸りられることになった。さっそく彼女の都合を聞いて、一度スーパーの肉売り場に来てもらうことにした。

翌日、彼女をこっそりとバックヤードの方に招き入れた。
「いま、見えるの?」
「いや、さっきまで見えてたけど、いまは見えない」
「・・・」
そこで彼女はさっきまでブタが見えていた場所をじっと見つめていたが、「あとで説明するから」と言ってその場をすぐに離れた。こっちとしても部外者をいつまでも招き入れておくのは気が気じゃない。彼女を職場に連れ込んでいると誤解される恐れがあるからだ。その後、店の方には前もって早退すると伝えてあったので、スーパーを退社して彼女とは約束していた近くの喫茶店で落ち合った。
「どうだった?」単刀直入に聞いてみた。
「姿が見えなくてもやっぱり居るわ。でも、わからないのはどうしてあなたのところに姿を見せるようになったのか、よ。普通なら化けてでるなら売り場よりもと畜場でしょ。例えば豚肉を粗末に扱うとか、何かなかった?」
それなら思い当たることがあった。
「豚肉の売り上げが急に伸びたことがあって、仕入れを増やしてみたんだ。そうしたら、売れ残りが出ちゃって、そういう場合消費期限を越えそうなものはその前に店員に安く社内販売するんだ。他に欲しい人がいなかったから、しかたなく豚肉の売れ残りを大量に買ったんだけど、その日すき焼きにしようと思っていたから、『すき焼きって言ったら牛だろ。豚肉じゃあすき焼きが台無しだ』とか、『豚肉は牛肉には及ばない。所詮豚肉は牛肉の引き立て役だ』とか言って散々豚肉を馬鹿にしてた」

「きっとそれが原因よ」
「そんな馬鹿な。生きているならともかく、いや、それもないな。ただの肉だぞ。人の言うことがわかるわけないだろ」
「付喪神って知ってる?物にだって霊は宿るのよ。ましてやお肉になるまでは生きていたのよ。それでちゃんとお肉は食べたの?」
「ちょうどその後風邪引いちゃって、胃にもたれるからさすがにお肉は食べられなかったよ。そのまま冷蔵庫にいれていたことも忘れて、思い出した頃には傷んでもう食べられなくなってた」
「豚さんの死が無駄になったのだもの、それは恨まれて当然よ」
「そうかな、食べ残しとか食材を無駄にするなんてよくあることじゃないかな」
「佐藤君も霊感が強い方なのよ。普通の人はそういうことをしても霊感が弱いから何もないと思っているだけで、そうではないの。私たちは食べ物だけじゃなくて、自然や私たちを取り巻く多くの人達から生かされているのよ。自分たちだけの力でここに居ると考えるのは人間のおごりよ」
「そ、そうかもしれない。でも、どうしたらいい?」
「まず、豚が見えるという、その仕事をしている部屋の四隅に塩を盛りなさい。結界を張るの。それから、日に3食、豚肉を使った料理を食べなさい。それも食べる前には頂きます、食べ終わったらごちそうさまでした、って心から食べ物に感謝して言うの」
「・・・朝から豚肉か。わかったよ、やってみるよ」

それから彼女に言われたとおりにしてみた。すると、それ以来ピンクのブタを見かけることはなくなった。念のために一週間は盛り塩をして、豚肉料理を食べて続けた。彼女にももう大丈夫だろうと言われ、やがてひと月も立つとすっかり気にならなくなった。

ある日閉店の時間を過ぎて仕事が終わり、もう帰ろうかというときに、パートのおばちゃんから声を掛けられた。
「高級松阪牛が売れ残っちゃったんだけど、消費期限切れちゃうから買っていかない」
「鈴木さん家で家族で食べたりしないんですか?」
「ほら、旦那も私も歳でしょ、コレステロールとかあるじゃない。食べたいのは山々だけど、健康診断も近いし、今度にするわ。佐藤君は若いんだし、これくらいすぐに食べちゃうでしょ」
「それなら僕が買いますよ。厚切りステーキにしようかな。やっぱり肉は牛ですよ、牛。豚肉なんてカスですよ」

家に帰ると早速肉を焼いて、遅い夕飯の支度をする。肉の焼ける香ばしい臭い。牛肉でしかも松阪牛!肉の味を損なわないように、味付けは塩こしょうを軽く振るだけ。焼きすぎると肉が固くなるのでさっと焼いてサイコロ大に肉を切り分ける。それをフォークで刺して口に運ぶ。口の中に広がる豚肉の味・・・。

呪いは解けていなかった

(終わり)

目次へ→


人気ブログランキングへ
関連記事
スポンサーサイト

  1. ショートコメディ
  2. / comment:0
  3. [ edit ]



 管理者にだけ表示を許可する
 

プロフィール

K

Author:K
そうだ!経費で落としましょう

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
小説・文学
10494位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
オリジナル小説
2895位
アクセスランキングを見る>>

フリーエリア

検索フォーム

ブロとも申請フォーム

« 2017 04  »
SUN MON TUE WED THU FRI SAT
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 - - - - - -

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。