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ライ麦泥棒つかまえて

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大学を卒業する今年度、就職活動の第一志望で狙うのはもちろん世界最大のコングリマット二菱グループだ。銀行を中心にして不景気の間につぶれそうな融資先を吸収合併していくうちに、気がついたら世界にも類を見ない巨大企業になっていた。この二菱グループは上は商社から下は廃棄物処理業までと、ありとあらゆる企業がそろっている。

中途採用や非正規雇用は企業ごとであるけど、驚くことにグループへの新卒の採用は本部の人事部で一括して行われる。もちろん、これだけ大規模なグループなので志望者数もものすごい数になるため、本部人事部だけでは採用試験の人手が足りず、グループ内から応援で借り出されることになる。

そして合格者はランク分けがなされ、Aランクならば銀行や商社へ、Bランクなら二菱電気や二菱自動車、Cランクならスーパーやデパートなどの大規模小売業といった具合に、そのランクに見合った配属先が決まる。ここでBランクと判断されれば、その後いくら他ランクで努力して成果を上げようとも、絶対に上のランクには行くことは無い。

上位ランクと判定されるためには、筆記試験と面接で高得点を出す必要がある。特に重要なのが面接だ。二菱では学歴よりも採用試験に力を入れている、といわれている。それにはこんな有名な話がある。東大を首席で卒業した人が、肝心の面接の日に風邪で38度の高熱をだしてしまった。なんとか無理を押して面接は受けたけれど、熱のせいで満足な受け答えができなかった。その人が今どうしているかというと、ゴミ処理場でフォークリフトの運転をしているそうだ。そういった職業の人を馬鹿にするわけではないけど、どう考えたって東大出の人のやる仕事ではないと思う。だけど、その人は二菱のブランドを捨てきれずに今でも転職せずに続けているという話だ。

僕は確かに三流大学出身だ。いや、ごめん。少し見栄をはったけど、本当は誰も聞いたことが無いような五流大学出身だ。普通に行けば良くてせいぜいCランクが良いところだろう。だけど、絶対に採用される。しかも、上位ランクで。なぜなら僕は特殊な、選ばれた人間だからだ。だから、学歴なんて僕には必要ない。この世で最も神に近いからだ。

そして、とうとう面接に日になった。こうして面接官を前にしても全く緊張していない。僕の今の心臓の鼓動を聞かせてあげたいぐらいだ。悟りを開いた坊主のように平穏だ。

面接はもちろん日本全国何カ所で数日にもわたって行われる。しかし、公表されてはいないが、話によると筆記試験の結果をもとにグループ分けをして、この日はBグループの日というようにグループごとにまとめて行われているらしい。ただ、このグループ分けというのはあくまで筆記試験による暫定的なものだから、それが外部に漏れてその後の試験の結果に影響をおよぼさないようにと、日程から現在の自分の成績が分からないようになっている。そのためその年ごとに面接の日程はランダムで組まれているらしい。

しかし、自分が上位グループかそうでないかは面接官の態度を見ていればわかる、と言われている。面接官も成績上位のAグループには気合いが入るけど、その他のグループの時にはやる気がでないからね。この日の面接官は話をしながらペンをくるくる回していた。今時、銀縁眼鏡をかけた神経質そうな男だ。

僕は少しがっかりしたけど、そんな素振りは表に出さずに、自分の名前と出身大学と志望動機などを述べた。そこで僕の履歴書を眺めていた面接官の手の動きが止まった。僕は「そら来た」と思った。

「この、特技の欄に書いてあることなんですが、これってどういうことですか?」

「そこに書いてある通りです。私は超能力が使えます」

「はい、ではそれをここで見せてもらえますか?」

あれっ、と思った。普通なら「嘘だろう?」とか、「からかっているのか!」と怒り出したり、何らかの反応があるのかと予想していたから、何か肩すかしを食った感じだ。僕は「はい、わかりました」と答えた。

「では、私が思い浮かべたイメージを答えてください」

「ちょっと待ってください。私の能力はそういったものではないんです」

「そういったものではない?では、どのようなものなのですか?」

「物を手を触れずに動かしたり持ち上げたりする能力です。サイコキネシスと言われる物です」

ここで、「では・・・」と、力を発揮して驚かしてやろうとも考えたが、面接官を見ると何か渋い顔をして考え込んでいる。「手を触れずに物を動かす」と聞いたら普通は驚くはずだけど、面接官の反応が気になって僕は躊躇した。もしかしたら良く聞こえなかったのか、それともあまりにも突拍子も無くて理解できなかったのかもしれないと思い、もう一度繰り返してみた。

「サイコキネシスです。手を触れずに物を動かせます」

「それはもうわかりました」

「では、ここでご覧に入れます。あなたの今持っているペンを手で触れずに折って見せます」

「いえ、それは困ります。これは使いますから」

「では、あなたを椅子ごと宙に浮かせて見せます」

「いえ、危険なのでやめてください」

あれ、何か反応がおかしい。普通だったら超能力を信じていない人だって、「見せて欲しい」ってねだるはずなのに、全く取り付く島もない。もしかしてマジックだと思っているのかもしれない。だったら、それこそここで披露して本物だと信じてもらわないといけない。

「では、何をすれば信じてもらえますか?」

「いえ、何もしなくてもいいです」

「超能力は本物です。失礼ですけど見もしないで嘘とかマジックとお考えなら、どうかここで実際に超能力を使うところをご覧になってください」

「あなたの方こそ誤解なさっているようですね。そのサイコキネシスが本物かどうかなんて問題ではありません。うちではそういった人材は求めていません」

「ちょっと待ってください。スプーン曲げなんて子供だましとはレベルが違うんです。本気を出せばこのビルを壊すことぐらい訳ないです。この力を使えば何だってできます」

面接官は僕の質問にはすぐに答えず、書類の束から履歴書を数枚抜き出して机に広げた。

「いいですか、我が社が欲しい能力者というのは、例えばこの人、私が今日あなたの前に面接したのですが、この女性は3カ国語が話せます。外国との取引に欠かせません。また、この男性は珠算の上級者でデータにも強い。データをその場で読み解いたり加工したりしながらの交渉ができます。それにくらべて、手を触れずに物を動かすことが何の役にたちますか?」

「ビルをぶっ壊せるんですよ?爆弾やミサイルも使わずに」

「では、我が社ではなくて自衛隊にでも入りなさい」

まったく予想外の答えだった。僕はいままで何の取り柄もなかった。運動ができるわけでも勉強ができるわけでも面白い話ができるわけでも見た目が格好いいわけでもない。これといって優れたものがない人は、いてもいなくてもどうでもいい存在だってことだ。大学に入って好きな女の子に振られてそのことに気がついた。彼女が新しくつきあいだした彼氏は、身長も高く名前を出せば誰でも知っている有名大学に通っていた。

そのことに気がついた僕はアルバイトでためた100万円で超能力のセミナーに参加した。頭の良い奴はいる。運動神経の良い奴もいる。でも、超能力が使える奴はそうそういない。特別な存在になるためだ。そこでは瞑想をしたり、脳波を測定する装置を頭につないで特定の脳波を出すトレーニングをしたりした。

僕を除いた全員は全く何の効果も出なくて、「詐欺に騙された」といって集団でセミナーの運営を訴えたりしていた。僕には、「いてもいなくてもどうでも良い存在」ではない、「この世界に必要な人間」になるためには絶対に超能力が必要だった。もし、超能力が使えるようにならないのなら、死ぬつもりだった。他の人にはこんな覚悟はなかっただろう。だから、いくら努力しても超能力が使えるようにならなかったんだ。

「自衛隊はちょっと・・・。強力な超能力者がいれば防衛予算を削られるから冷遇されるとか、人体実験されるとか噂で聞いたもので。貴社では確かビルの解体業もなさっていましたよね。ダイナマイトを使わなくてもそれができるのですよ」

もうこうなったらランクなんて関係ない。ただ、超能力は無駄では無いとこの面接官に言わせたい、それだけだった。

「それは周囲に一切被害を出さずに行える物なのですか?そんなに精度の高いものなのですか?」

「いえ、力が大きければ大きいほど、破片が飛び散ったり衝撃波や震動など周囲に与える影響は大きくなります」

「では、駄目ですね。解体作業ってただ壊せば良いというわけではありません。むしろ、いかに周囲に影響を与えずに行うかにかかっているのです」

「それなら、スクラップ工場などはどうでしょう?機械を使わずに自動車をぺしゃんこにできます」

「機械のボタンを押すだけなのに、わざわざ機械を使わない意味がわかりません」

僕は無駄な役立たずの人間なのか?僕という人間の全てを否定されたように感じた。その時、僕の頭にある職業が思い浮かんだ。

「ボディーガードとかはどうですか?銃弾だって弾き返します。最強のボディーガードになりますよ」

「ああ、あそこは警察の天下りだから新卒はとらないんですよ」

僕のいちるの望みは一蹴された。

「実は特技が超能力っていう人は結構多いんですよ。皆隠しているだけで。テレパシーだとまだ交渉で優位に立てるとか、ほんの少しだけ役に立つのですが、それだけです。人より回復力が早いとか、鉄を自由に動かす能力とか、そういったものは全く役に立ちません。しかし、得てしてそう言う人は自分が選ばれたとか勘違いをしてしまいがちですが、世の中の大部分の人はそういった能超能力を持たずに世の中の役に立っています。超能力なんてそんなものですよ」

もう、僕は面接官の顔を見ることもできずに、机とにらめっこしていた。僕の姿をみて、面接官もさすがに言い過ぎたと思ったのかもしれない。最後に気休めで「まあ、気を落とさずに」と言われたが、もちろん返事をする気力すらなかった。しかも、面接が終わっても自分で椅子から立ち上がれずに、当の面接官に手をかしてもらうという体たらくだった。

採用試験の結果、僕が勤めることになった仕事は僕一人しか従業員がいない釣堀屋の管理人だった。たしかに大きなグループ企業だとは聞いていたけど、釣堀まで経営していたとは初めて知った。僕は入社してからというもの、客もろくにこない釣堀で毎日毎日魚を眺めてくらした。その釣堀も半年で閉鎖された。僕はこれを機に退職した。



消防車が到着したときにはマンションの17階は火に包まれていた。14階より上は梯子車は届かない。しかも、このマンションはスプリンクラーなどの消火設備がきちんと作動しないという、以前からの噂通りの欠陥建築だったようだ。17階の端の部屋のベランダから、逃げ遅れた女性が何か叫んでいる。この時期帰省ラッシュで、マンションの住人はほとんど出払っているため火事の発見が遅れたのだろう。彼女の部屋も火に包まれている。今から救助に向かっても、その間に熱さに耐えられずに女性はじきにあのベランダから飛び降りることになるだろう。彼女はもう手遅れだ。僕がここにいなければ。

僕はベランダから飛び降りた彼女を空中で静止させた。もちろん超能力でだ。パニックになりかけている彼女をそのままゆっくりと地上に降ろす。僕は消防士になった。そして今日も人を救った。この力を使って。

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