主にショートギャグを書いています

ライ麦泥棒つかまえて

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犬の散歩を装い、ついに例の計画を実行することにした。コテツをつれて屋敷の周りを回ってみる。50メートルほど土塀沿いに歩くとT字路に突き当たる。そこを右に曲がり少し歩くと屋敷の正門の前に出る。敷地に入るには正面に見える大きな門を通らなければならない。しかし、門は車が通るとき以外は閉じられており、中がどうなっているか外からは分からない。正門横の通用口には来客用のインターフォンが設けられている。しかし、それ以外にも隠しカメラが設置されていることを俺は知っている。なぜかというと、散歩の途中にコテツが門の前でうんこをして、それを片付けずに行き過ぎようとしたらインターフォンでひどく怒られたからだ。

正門前を通り過ぎると、右に曲がって再び土塀沿いを歩いて行く。道には土塀を通り越して伸びている樹木の影がかかっており、真夏の厳しい日差しのもとでここだけは空気がひんやりとしている。こうしてしばらく歩くとお目当ての場所にたどり着いた。そこでリードごとコテツの首輪を外してやる。ここからコテツは野良犬ということになるからだ。

コテツのリードを離すと、教えた通り土塀に開いた穴から敷地の中へと入っていった。コテツが戻ってくるまでの間、通行人に見られても怪しまれないように土塀の穴は立て看板で隠し、タバコを取りだして道端で一服している風を装った。そこで初めて立て看板に書かれている内容を知った。立て看板には深夜によくCMが流れているサラ金会社の名前と電話番号が書かれていた。困ったときにはお電話ください・・・か。そこに書かれている文句をつぶやく。

やがて立て看板を前足で擦る音が聞こえた。コテツが戻って来た合図だ。立て看板をずらしてコテツを外に出してやる。コテツは口にお札を咥えていた。コテツからお札を取り上げると、そのかわりに思い切り体をなでてやり、ご褒美のビーフジャーキーをあげた。コテツが運んできたのが一万円札一枚きりであることに眉をひそめる。が、しかし初仕事にしてはまずまずの成果と言って良い。確認すると、それを折りたたんでポケットから取りだした小銭入れの中に突っ込んだ。そして再び立て看板で土塀の穴を隠すと、コテツに首輪を取り付けてそのまま散歩を続けた。途中何度も後ろを振り返っては誰も付いてきていないことを確認すると、そこでようやく裏手にある自宅に戻った。

まず、計画は成功したといっていい。しかし、盗んできたのが一万円札一枚きりというところにひっかかかっていた。何か状況の変化があったのか、それとも単にコテツの気まぐれなのか。そんなことを考えながら、折りたたまれたお札を伸ばして財布に移し替える。ついでに財布の中身も整理することにした。必要の無い名刺やら使い切ったテレホンカードなどをゴミ箱に捨てる。財布からおもむろに銀行のキャッシュカードを取り出すと、持ち上げて真横から見てみる。やはり、かなり反っている。この前お金を下ろそうとしてキャッシュカードを取りだしたときに気がついた。財布はいつもズボンのポケットに入れていたが、この夏の暑さでプラスチックが柔らかくなっていたのだろう。そのまま椅子に座ると体重がかかって財布が曲がってしまい、中のカード類が変形したのだろう。それ以来、ちょっとした外出の時は小銭入れを使い、極力財布は持ち歩かないようにしていた。コテツの散歩などはせいぜいタバコ代か喉が渇いたときのジュース代程度なので、それでも事足りた。

それにしても我ながら上手い方法を考えついた物だ。足下でドッグフードを食べているコテツを見ながらそう思った。むろん、これにはいくつかの幸運によるものだ。ただ、これは単なる運まかせとは違う。それらを見つけ出し、つなぎ合わせて一つの計画として練り上げる必要があった。

もともとあの屋敷に誰が住んでいるかなんて、すぐ近所に住んでいながら全く知らなかった。ただ、屋敷の広さと、時々見かける屋敷に出入りする黒塗りの高級車から、子供心にもお金持ちが住んでいるということは分かっていた。

その後、会社が倒産し寮から実家に戻ったとき、俺を迎えてくれたのは年老いた両親とこの小型のビーグル犬のコテツだった。だがその両親も相次いで亡くなり、この家とコテツだけが残された。両親の葬儀で何が情けなかったかというと、親戚連中から仕事は何をしているのかと聞かれ、無職と答えなければならなかったことだ。それも日本全国不況の真っ最中だから仕方ないと言えば仕方ないのだが。しかし、全国的な不動産価格の下落は最大の相続税対策となった。おかげで家屋敷を売らずに済んだからだ。と言っても日々の暮らしにも事欠く有様で、返せるあてもないのにサラ金に手を出していた。

あの屋敷の主というのが、自分が金を借りているサラ金会社の会長だ、ということを知ったのはつい最近だ。そこで沸々と怒りがわいてきた。いや、これは個人的な怒りではない。世間には不況でお金に困っている人が溢れている。そういう人の弱みにつけ込んで高利でお金を貸し、自分は何の苦労もせずに金を儲けて豪邸暮らし。そういった格差社会という不平等な世の中に対する純粋な怒りだ。まったく、少しくらい返済を待ってくれてもいいじゃないか。

そんなとき、コテツの散歩の途中に屋敷の門の外で業者のトラックを見つけた。彼らは仕事が終わってこれから帰るところらしく、仕事の道具を荷台に積み込んで整理していた。「こんにちは」と挨拶をすると、彼らも「こんにちは」と挨拶を返してきた。そこで彼らとしばらく立ち話をした。そのときは何かの情報を彼らから聞き出そうとしていたわけではなく、ただ暇だったから話しかけただけだった。

思いかけずそこで彼らから面白い話を聞くことができた。彼らはエアコンの取り付け業者で、新たに買い換えたエアコンの設置でここに来たらしい。二人のうちの二十歳ぐらいの若い男の話では、設置工事のために屋敷に入ると、広い居間にあるテレビ台には無造作に札束が置いてあったそうだ。そこで親方とおぼしき中年の男が、「もし何かあって自分たちが疑われるのは嫌だから、きちんとしまって欲しい」と言うと、主人は「これぐらいなら別に持っていってもいいのに」と答えたそうだ。

この話で重要なのは、もちろん金持ちの狂った金銭感覚ではない。お金が無造作に置かれているということだ。金庫にでも入っているのなら素人には手が出せないが、置かれているだけならただ見付からずに持ってくればいいだけの話だ。しかし、こちらは忍び込むことに関しても素人だ。しかも、あそこのセキュリティーは厳重ときている。門の前に犬のうんこを放置して帰ろうとしただけで怒られるくらいだ。

だがしかし、彼らからは他にも重要な話を聞き出していた。屋敷には猫が飼われていて、若い男は猫アレルギーなのか仕事中くしゃみが止まらなかったのだそうだ。そのため、勝手口のドアにはご丁寧に猫が出入りするための猫用の出入り口が取り付けてある。作業中にも猫を見かけたというので、どのような猫だったのか聞いてみると、丸々と太った大きな三毛猫だったそうだ。その猫には心当たりがあった。この近所では以前から、家の中に猫が入り込んでいたずらをしていると問題になっていた。

この前その大きな三毛猫が我が家の食卓の上に座り込んで毛繕いをしているのを見つけた。幸いにも食卓の上には何も出していなかったが、やはり気分が悪いのでテーブルクロスは新しく買い換えた。捕まえようと近づくと、猫はものすごい勢いで庭の方向に向かい居間を突っ切って走り出した。猫はそのままの速度でガラス戸を突き抜けて外に逃げた、ように見えた。ガラス戸に近づいてよく見ると、引き戸がその猫が通れるくらい開けられたままになっていた。もちろんガラス戸を閉め忘れたということはない。猫が自分で開けたのだ。

そこで屋敷の周りの土塀を調べてみた。と言っても、コテツの散歩がてら歩きながら横目でざっと土塀を見ただけだが。思った通りそれはあった。屋敷の敷地内に生えている木が地表を這うように根を伸ばし、それが土塀を突き破り土塀下側に猫が通れるくらいの穴を開けていた。おそらくあの猫はここから出入りをしているのだろう。そして、丸々と太ったあの猫が通れるくらいだ、小型犬でも同じ事は可能だろう。

そこで、10メートルほど先にある電柱に立てかけてある、少しさび付いた鉄製の看板を移動させて穴を隠した。ただ、穴は地面に近いところにあり、そのまま立て看板を置くと、穴が看板の脚に当たる角材の位置にあるので全く隠れない。そこで不自然ではあるが、立て看板を風で倒れた風を装い横倒しに置き土塀の穴を隠した。

ここまでお膳立てがそろえば、あとは犬の訓練だけだ。計画が成功するかどうかは全てビーグル犬のコテツに掛かっている。年老いた両親が老後の寂しさを紛らわせるために飼ったこの犬も、こうなったからにはせめて自分の食い扶持ぐらいは稼いでもらわないといけない。

まず、おろし立ての一万円札を財布から取り出すと、その臭いを覚えさせた。そしてそれを咥えてここまで持ってこさせる。これを何回も繰り返した。最初は短い距離で初めて、徐々に距離を長くしていった。もちろん、ちゃんとここまで持ってくる度に思い切り体をなでてあげて、このために奮発して買ったビーフジャーキーを惜しげも無く与えてやった。

こうして訓練を繰り返し、初めて臨んだ実践において計画通りに事は運んだ。そして、翌日も、その翌日もコテツは一万円札を咥えて出てきた。これで完全犯罪成功だ、と喜んだのはつかの間、何かがおかしい。毎日毎日お金を咥えてきているはずなのに、なぜかお金が全く増えていない。

今日もコテツを土塀の穴から中に入れた。そこでいつものように穴を隠した看板の前でタバコを吸っていた。ふと横を向くと、コテツとおぼしき犬の後ろ姿が見えた。コテツはそのままこちらとは反対の方へ向かって歩いている。そこであわててコテツを見かけた辺りに駆けていくと、なんとそこにも土塀に穴がある。ここはちょうど、あの立て看板がもともと置かれていた場所だ。立て看板を動かしたあのときには、計画のことに気を取られて全く気がつかなかったし、その後はちょうど穴の前にある電信柱に隠れて気がつかなかったのだ。

嫌な予感を抱きつつ、コテツの後を距離を置いて付いていく。やはりコテツは我が家に入っていった。うちにはもちろんペット用の出入り口などない。しかし、隣の三毛猫と同じように爪でガラス戸を開けると家の中に入っていった。ガラス戸越しに外から中を眺めると、定位置である居間のテーブルの上に置かれた財布から前足を器用に使って一万円札を抜き取ると、それを咥えて外に出てきた。

思った通り、コテツはそのままさっき出てきた土塀の穴のところへと戻って行った。そしてそこから再び屋敷の敷地内へと入ると、今度は敷地内を通って最初に入った穴の敷地側から、入り口を隠している立て看板を前足でひっかいた。いつものように立て看板をどけてやると、コテツが道路側に出てくる。口には一万円札を咥え、しっぽをぶんぶん振っている。おそらく、いつものように褒めてもらえるつもりでいるのだろう。

よくやったな、コテツ。だが、それは俺の金だ!!

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