主にショートギャグを書いています

ライ麦泥棒つかまえて

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歩き続けてもうかれこれ2,3時間になるだろうか。カレンダーがなくても今日が正月であることはわかる。街はいつもより人で溢れ、振り袖を着てめかし込んだ女性が目を引いた。人々の顔にはゆるみきった笑顔が張り付き、街は浮ついていた。しかし、僕がこうして近づいていくと、顔をしかめながらまるで値踏みでもするように上から下まで眺めまわし、そっぽを向くかそうでなければ、「こっちに来るな」とでも言うように鋭い視線でにらみつける。

それもしかたがない。そう思う。一ヶ月以上風呂に入っていないので酷い臭いがすることだろう。僕自身はもう慣れてしまった。髪はぼさぼさで髭も剃っていない。ダウンジャケットも所々に空いた穴から中の綿がはみ出している。

これもみんな、僕がホームレスなのだからしかたがないことだ。僕は外国に行ったことはない。どこか知らない外国の街を一人で歩くというのはこういう気分なのだろうか。でも一ヶ月前までは、こうして歩いていても誰からも気にもとめられず拒絶もされない、空気のような存在だった。

だけど、いきなり働いていた自動車の組み立て工場を首になった。別にミスをしたわけじゃない。ただ、生産予定の大幅な変更があり、人手が余ることになった。そこで派遣契約を切られた。所属していた派遣会社の寮からも出て行かなければならなくなり、住むところも失った。それだけじゃない。新しく仕事を探すにしても履歴書に住所も書けない。そんな人をどこが雇ってくれるというのか。わずかな貯金もすぐに底をついた。

コンビニエンスストアの賞味期限切れの弁当でなんとか食いつないだ。食い物さえ手に入れればあとはやることがない。昼間は公園のベンチに横になって眠っていた。ここでは水とトイレが使える。ただ、この時期じっとしていると寒くてたまらない。特に夜の寒さには耐えられないので、夜は一晩中歩いて体を動かし寒さをしのいでいた。日が出て温かくなってきたら公園のベンチで眠り、起きたら暇つぶしもかねて街でもぶらつく。

郊外の広い敷地の大きな家の前を通りかかったときだ。そこで飼われている犬と目が合った。僕は立ち止まってしばらく犬を眺めていた。犬は黒くてつやのある良い毛並みをしている。

「俺の家がそんなにうらやましいか?」
犬小屋の屋根にひじをついて体を支えながら、犬が言った。

よお

「ただの犬小屋だろ。別にうらやましくはないよ」
「犬小屋すら持たないお前はなんだ?ただの宿無しだろ」
彼はあごを少し上にあげながら言った。なんだかまるで見下されているような気分になる。犬小屋の前には白い陶器のボールに入ったドッグフードが置かれている。食べ残しか。安い顆粒状の餌ではなくて缶詰に入っている生に近いタイプだ。金持ちは飼っている犬でさえ贅沢に慣れているのか。

「言ってみろよ」
「何を?」
「だから、思っていることを言ってみろよ」
「別になにも考えてないよ」
「なら、なんでこっちをじっと見ていた?」
「ただ、ぼうっとしていただけだよ」
「本当にそれでいいのか?空を見て見ろよ。曇天だ。きっと今夜は雨になる。いや、この寒さだと雪か。いいのか、寒さに凍えながら一晩中雨宿りすることになるぞ?」
「・・・実は体調がすごく悪いんだ。風邪を引いたかもしれない。風邪をひいても医者にもいけない」
「だったら言うことがあるだろう」
「・・・泊めて欲しいんだけど」
「もっと大きな声で言えよ」
「泊めて欲しいんだけど!」
「いいぜ、こっちきな」
彼はあごを振って言った。芝生を突っ切り僕はおずおずと彼に近寄っていった。犬小屋のすぐ近くまで寄ったとき足の下に何かやわらかものを踏んだ感触がした。
「・・・君のうんこふんじゃったよ」
「お前だって糞みたいな臭いがするぜ」
彼は犬小屋の入り口の前で、首を振って中に入るように促した。中は思ったよりも広く、丸く体を縮めれば犬と人とがなんとか入れるようだった。
「入れよ。お前にはちょっと狭いけどな。泊めてやるが一つ条件がある。朝夕の散歩につきあうこと。それだけでいい」
「ありがとう、助かったよ」
僕は素直にお礼を言った。


「・・・という訳なんですよ!ですから、この犬が今日泊めてくれるって言ったんです。ですけど、このわんちゃんを叱らないでください。僕の境遇を哀れんでのことなんですから」
「あなた、頭大丈夫ですか?犬が喋るわけないでしょ。いい加減にしないと警察呼びますよ」
「いや、正確には喋ったと言うより心と心で通じ合ったというか、ねえ、そうだよね」
僕は犬の方を見て同意を求めた。
「クロちゃんと通じ合ったって、あなたいま噛みつかれているじゃないの」

・・・やっぱり通じなかった。

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